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失ったのは若さだけではない『トップガン』

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  2022年に公開されスマッシュヒットも記憶に新しい『トップガン マーヴェリック』の36年前に公開された前作『トップガン』。 36年前というと四半世紀以上も前の作品であり、なんで今更36年前の映画なんてと思う人もいるかもしれないが、36年前だろうが映画にとって古いなんて言葉は適切ではない。 『トップガン』の中ではスマホなど今は当たり前のものがないのが当然だし、もしかしたら『トップガン』の時代のようにスマホがない日常を観ているだけで手持ちぶたさを感じる人もいるかもしれない。 逆に当時はあったけれど今はないものもある。 エリートパイロットを養成する訓練施設「トップガン」を舞台にした本作には、今から見れば若きトム・クルーズをはじめ数多くの若き俳優たちのむせかえるような灼熱のエネルギーが充満している。 友情 愛情 夢 葛藤 これらは今も昔ももちろんあるのだが、36年前の映画『トップガン』観ると今よりも濃密に向き合っているように感じる。 インターネットがなかったころはいったい何をしていたんだっけと思うことが自分にもある。 ちゃんとネットのない時代を生きてきたはずなのに、今となっては何をしていたのか思い出せない。 ボーとしていたのか。のんびりした時代だったのか。 すっとそう思っていたのだが、そうではないということを映画『トップガン』は思い出させてくれた。 好きなことに熱中する、夢中になる。 昔は当たり前でも、 今、熱中できるのは特別なのだ。

『燃えよ剣(2021)』

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  原作は司馬遼太郎の同名小説。 新選組を題材にした作品は、映画に限らず、ドラマ、小説、漫画、舞台と多岐にわたるし、『燃えよ剣』に関しては2度目の映画化。 だから新選組の面々がこの後どうなっていくのか、きっとこの映画を見る人の多くは知っている。 多摩のバラガキ(ならず者)だった土方にどうして人は惹きつけられるのか。 新選組の人気を決定づけたのが小説『燃えよ剣』なら、この小説を原作にした映画『燃えよ剣』には人を魅了する答えがある。 新選組の6年間を描くには148分の映画でもまだ短い。

真実は小説よりも『ザ・ロストシティ』

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  君は表紙で中身を判断しないと思っていた 新作ロマンティック冒険小説『The Lost City』を完成させた人気作家のロレッタが『The Lost City』内で描かれた伝説の古代都市の場所を知っていると思い込んだ億万長者フェアファックスによって南の島に連れ去られ、小説『The Lost City』の表紙を飾ったモデル・アランがロレッタを救出するために南の島に向かう。 このあらすじだけでもワクワクするが、出演するのがサンドラ・ブロック、チャニング・テイタム、ダニエル・ラドクリフ、ブラッド・ピットという豪華メンバーにワクワクと心拍数が止まらない。 映画もワクワクとドキドキの連続だ。 サンドラ・ブロック演じる作家のロレッタは言われるがままに着させられたレンタルのピチピチボディスーツにお尻の割れ目を食い込ませ、イベントに登場したチャニング・テイタム演じるモデルのアランはEurope の楽曲『Final Countdown』に合わせポーズを決める。 救出に向かった南の島ではブラッド・ピット演じるジャック・トレーナーが大活躍。 金髪の長い髪に太い腕のジャック・トレーナー。 この太い腕で次々に大男をスリーパーホールドで眠らせる。 出演時間は短いながらもジャックの生きざまは最後まで必見。 ダニエル・ラドクリフはダニエル・ラドクリフだ。 コメディ作品ということでおちゃらけ担当に思えたモデル・アランの独白のシーンにハッとさせられた。 ロマンティック冒険小説の表紙を飾ったことで世間のイメージと自分とのギャップに悩むアラン。 冒頭のイベントでの登場シーンも決して彼の本心ではない。 「君は表紙で中身を判断しないと思っていた」と本の著者ロレッタに打ち明けるシーンは恋愛感情の告白だけでなく、人生の吐露だったのだ。 浅いようで意外に深い。 インショアホールムービー。

ロサンゼルスのレコード・チェーン『リコリス・ピザ』

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  1973年のアメリカ西海岸サンフェルナンド・バレーで繰り広げられる1組の男女の爽やかな青春恋愛ムービー。 15歳の高校生にとって年上の女性は危険だ。 自分を大きく成長させることもあるが、一方でその魅惑や受けた施しに生涯にわたって影響を受け続けることもある。 アメリカ西海岸のサンフェルナンド・バレーに住む高校生ゲイリーは子役俳優として活躍しているが、学校で行なわれた写真撮影にカメラマンの助手としてやって来た年上の美しい女性アラナに恋をしてしまう。 子役という特別性に自信を持つゲイリーは自信満々でアラナを口説く。 思わず心の中で叫んでしまう。 「1973年、アメリカ西海岸!」と。 スマホどころか携帯電話もない時代。 家に電話をかければ親が出る。 電話の内容も家族に聞き耳を立てられる、プライバシーや個人情報という言葉が生まれてない時代。 道には新車のクラシックカーがパワフルに走り、事件の容疑者と同じ服装というだけで容赦なくパトカーで連行される。 今から見れば、 何もない。 でも、何でもできる。 そんな時代に生まれた1組のカップル。 自身と時代の成長に否応なく巻き込まれ、好むと好まざるとにかかわらず変化を求められる10代から20代という時期に出会ってしまった二人がつかず離れず成長する。 お互いを思いながらも言葉にできず、言葉にできても行動にできないもどかしさ。 二人はお互いに向かって走っている。 ただ方向が違うだけ。 走り切った先にお互いがいるのかいないのか。 いつか手をつないで同じ方向へ走り出せる日が来るのか。 1970年代アメリカ西海岸で生まれた二人のきらめきから目が離せない。