『私はいったい、何と闘っているのか』

安田顕演じるスーパーのフロア主任と彼の妄想が巻き起こすヒューマンコメディかと思いきや骨太の人生ドラマ。 日常の節々で語られる妄想と想像。 決してふざけているわけではない、折々で語られる安田顕の心の言葉が自分の心に突き刺さる。 日々繰り返される日常、刺激のない毎日は誰のせいでもない。 自分の想像力が枯渇しているだけなんだとこの映画は教えてくれる。 安田顕は冴えない中年なのかもしれない。 しかし家族には愛されている。 安田顕が娘の婚約者にいった言葉 「小梅(娘)は泣き虫だから、泣かさないでね」 もっといい言葉があったもだけれど、これが精いっぱいと心でつぶやく。 彼の心の中で無数に現れた言葉に比べれば、物足りない言葉だったのかもしれないけれど、 悩んでもがいて絞り出した言葉で家族はつながっている。 後半、登場人物たちの歩んだ様々な人生や人のつながりが交差したタクシーのシーンは最高だ。 語られる言葉は少ないけれど、そこ居合わせた人たちの様々な思いが視線や表情、 安田顕の心の声で語られる。 原作はつぶやきシローの同名小説。 だがそんな予備知識など目に入れずに観てほしい。